閉ざされて















重い出来事は、どこか遠くに置き去りにされる。


それに囚われている限り、ネガの沼から抜け出せないから。


思い出しさえしなければ、
気持ちには平安がもたらされ、日々の暮らしを送っていける。






しかし、見て見ぬふりをして得た安らぎは本物ではない。
だから心を落ち着かなくさせる。


欺瞞の時限爆弾のようなものだということを、自分が一番よく知っているから。






無かったことにしたい出来事と対峙するということは、血を吹くような辛い格闘だ。


そんな目に遭ってまで、
日々の平穏を壊してまで、
闘う意味があるのか。






今日を無事に乗り切れればそれでいい。


できることなら、目の前から消え去ったまま、自分を見つけないで欲しいと願いながら、
明日へ明日へと先送りされていく。






そう、それは、執行を猶予されているというだけの、ただの先送りなのだ。


過去は、実際にはいつでも身に添ってついてまわっているのだから、
置き去りになど出来ようはずもない。


先のいずれかで必ず迎えに出てくる。






自分は自分を本当に生きているのだろうか。


この先の気の遠くなるような長さ、或いは、限りがあると悟った時間いっぱい、
本当に生き切るということを願えば、
心は本物の落ち着きを、安らぎを、得たいと望みはじめる。






忘れてしまいたい過去にこそ、自分が生きている意味が隠されているのかもしれない。


自分の人生を作っているのはただ一人、この自分なのだという、
存在の揺るぎなさを与えてくれる何かは、
もしかしたら、その血を吹くような闘いの中のみに、あるのかもしれない。






・・・『閉ざされて』。


この作品は、2000年に新潟で発覚した少女監禁事件をモチーフにしている。


9歳で誘拐され19歳で発見されるまでの‘失われた9年2ヶ月’は、
彼女にとってのなんであったのか。






何が彼女を生き抜かせたのか。


何を彼女は愛し続けたのか。








この芝居を見たら、笹川美和さんのこの曲をもう一度聴いてみてほしい。
あなたはきっと戦慄することになるだろう。


生きるということは、圧倒的な力強さでほとばしる、希望そのものなのだ。






願わくば、この1年に疲れ怯えたすべての人々に、この芝居を贈れたらと、
心から思う。










   劇団離風霊船 創立30周年記念公演第一弾 『閉ざされて』

   作・演出 大橋泰彦
   4月4日(水)〜8日(日) 下北沢 ザ・スズナリ
   
   ご予約・公演情報はこちら







劇団離風霊船サイト